禅小話

目次
はじめに 1 音  2 槍の位 3 只今に道を求めて歩む人生 4 大文字行 5 気概  6 お地蔵さん  7 後ろ姿   8 息 9 行儀 10 体で考える 11 馬鹿になる 12 終わりに 13 喫茶店のマスターと脚下照顧 14 宝蔵院胤栄 摩利支天石  15 饂飩(うどん)会について

1 音

平成10年7月26日(日)
一 箭 順 三

 今日も皆さんの後ろを歩かせていただき、肩を打たせていただきましたが、私はこの自分の出す音を聴くことを通して自分を確かめようといたしております。
 道場では、坐禅の始めと終わりに打たせていただく鐘の音、皆さんの後ろを歩く足音、警策を打たしていただく空を切る音、そして肩を打つ音、この道場へ来る前には習心館道場で坐らせていただいておりますが、この坐禅を終えて、道場の神前で打つ柏手の音、と色々な音を出しております。そしてこの自分の出す音をよく聴きますと、自分の心とは無関係ではないのだと考えるようになりました。
 浮いた気持ちで歩けば浮いた足音になりますし、迷いつつ肩を打たせていただいたり、柏手を打つと冴えた音にはなりません。もちろん音を聞かずとも、浮いておれば浮いているのであるし、迷っておれば迷っているのですからそれだけのことではあるのですが、鐘の音、足音、空を切る音、肩を打つ音にも自分の理想音を心に描き、その理想音を思いつつ自分の音を聴き、肩の力の入れすぎ、迷いを確かめているというところでしょうか。逆に言いますとこの音を聴くことを修行中自分だけの楽しみとしているわけです。
 鍵田先生は理想的な歩き方を「虎視牛行(こしぎゅうこう)」だと教えて下さり、よく色紙にも書いてくださいました。虎のように眼を半眼に開き、牛のように力を入れずに悠々と歩けと仰るのです。ここは、折角の道場なのですから、せめて道場におられる間だけでも、ご自分の歩かれる姿に注意を払うという心がけは必要だと思います。そのチェックに足音を聴くことも一つの方法ではないでしょうか。
 肩の力を抜き背筋を伸ばし、そしてご自分の歩く姿を自身で見つめ、その足音を聴き、心を込めて歩くといいますか、しっかりと大地に根付いた悠々とした歩きをさせていただくということが大切なのだと思います。お互い絶えず工夫をし続けたいものです。






2003.02.16