禅小話

目次
はじめに 1 音  2 槍の位 3 只今に道を求めて歩む人生 4 大文字行 5 気概  6 お地蔵さん  7 後ろ姿   8 息 9 行儀 10 体で考える 11 馬鹿になる 12 終わりに 13 喫茶店のマスターと脚下照顧 14 宝蔵院胤栄 摩利支天石  15 饂飩(うどん)会について

8 息

平成10年11月22日(日)
一 箭 順 三

 先にご案内しておりますように、来週は会場の都合で臨時休講となります。お間違えありませんようにお願いします。従って12月は6日から始まり、年内ここで坐らせていただける坐禅会は僅か3回となります。お互いしっかり修行させていただきたいと思います。

 今日は「息」の話をさせていただきたいと思います。
 「息」は私達が生まれてから今まで、ずっと休み無く、毎日どころか寝る間も惜しんで一つことの稽古を続けてきているものですから、私達誰もが息の名人ということになるはずです。しかし、あまりに身近で、当たり前すぎて、注意を払い工夫する人は少ないのではないかと思います。
 道元禅師が著された「普勧坐禅儀」というお経があります。これは道元禅師が中国から帰ってこられて坐禅を広めるために書かれたお経で、今で言えば坐禅の勧めというべき入門書ですが、この中に詳しく坐り方が書いてあります。「息」については「鼻息微かに通じ、身相既に調えて欠気一息し、左右揺振して兀兀(ごつごつ)として坐定して」とあります。
 つまり、鼻から静かな息をしなさい、そして坐り始めに体中の息を吐き出してから、兀兀と坐りなさいと教えておられます。坐禅は腹式呼吸が良いとは聞いておられと思いますが、自分の息に注意を集中して特に吐く息を細く長く吐くことを稽古されたらよいと思います。息を出せば自然と体に空気が入ってきますのでそれを吸ってお腹に入れます。姿勢が悪かったり歪んでいると、息を充分に吸えませんので正しい姿勢が求められるわけです。

 しかし正しい姿勢だけでも十分な呼吸は出来ないのですね。呼吸の一番上手なのは赤ちゃんで、理想的な腹式呼吸をしているのですが、だんだん大きくなるに従って、緊張やら余計な力やらが働いてお腹の筋肉を固くさせ、横隔膜を上下させてのゆったりとした呼吸が出来なくなってくるようです。
 私は槍の稽古をしておりますが、槍の演武にも息が大切で、ゆったりとした呼吸の中で演武するように言うのですが、これがなかなか難しいのです。槍は「ヤー」という気合いと共に突くのですが、息を吸っていないと声も十分に出ません。手足の動きに囚われ、さらに緊張でお腹の筋肉を収縮させてしまって、お腹に空気を入れることが出来なくなってしまっているのです。演武を終えても脂汗を滲ませ、ハーハー息を乱して帰ってくる伝習生が多いのです。
 坐禅は槍のような力が要りませんが、同様にお腹の緊張や力を抜くことが大切なのです。試しに仰向けに寝て力を抜いたお腹にして、横隔膜を上下させる息の長い呼吸を工夫・研究されてはどうかと思います。
 鍵田先生は「坐禅は初心の内は数息観がよろしい。慣れてきてもこれを続けるのがよろしい」と教えて下さいました。数息観とは自分の息を一つ、二つと数えるだけのことなのですが、これがなかなか続けるのが難しいものです。実際やっておられる方もおられると思いますが、数を数えていても、数の隙間から雑念が湧いてくるように現れて私達を悩まします。
 しかし有り難いことに、私達の頭は考えることと数を数えることは同時には出来ない構造になっているようです。数息観はお釈迦様の教えだと聞いておりますが、実に素晴らしい方法を発明されたんだなと感心しているのです。数息観は慣れて参りますと息の数の中に自分を移し込むというのでしょうか、息と一体になることが出来ると言われています。
 坐禅中は本来、呼吸を工夫するとか意識するということは必要ないことではありますが、こうしたことが意識しなくても普通に出来るようになるまでのある時期、工夫する、試してみる、自分に挑戦するという期間があっても良いのではないかと考えております。そうしたことでまた坐禅が楽しくなるのではないかなと思います。
 このほか鍵田先生が息について教えて下さったことでは「息は生死だ」とか「息は電気だ。吸ったとき電気がぽっとついて、吐いたとき消える」と仰っていました。また坐禅以外では、剣道の試合など相手と向き合った時や、暴漢に襲われた場合の息の使い方をヒントとして教えて下さいました。息を電気に例えて電気のやりとりとして教えて下さったようです。今となっては、もっとしっかりお伺いしておけばよかったと後悔しているのですが、教えていただいたヒントを基に自分で工夫・体得したいものです。いつか自信ができればお話しさせていただきます。皆さんも一緒に工夫していただきたいものです。

 先週からご案内いたしておりますが、12月1日から「臘八(ろうはち)の接心」が始まります。これはお釈迦様が2600年前に悟りを開かれた12月8日に因み8日間の坐禅会を開催しているもので、習心館道場では今年で38回目を迎えることとなります。この機会に広く一般の方々にも呼びかけ、共に坐らせていただこうとするものです。はじめに申しましましたように、年内はここではあと3回しか坐らせていただくことは出来ません。これでは坐り足りんぞと感じられる方、もっと坐らせていただかにゃと思われる方はどうぞ習心館へお越し下さい。





2003.02.16