昇格・昇級報告演武会

宝蔵院流槍術
平成22年度 昇格・昇級報告演武会


日時  平成22(2010)年7月3日(土)11:00〜12:00

会場  奈良市中央武道場
    

観覧  自由(無料)

 宝蔵院流槍術では、平成22年5月に伝習者の昇格・昇級審査を実施しました。
 そして昇格・昇級審査合格者には6月5日開催の奈良宝蔵院流槍術保存会総会終了後、保存会役員、会員及び伝習者立ち会いのもと、印可状・修得証がそれぞれ授与されました。
 この合格者達によって、宗家はじめ諸先輩・後輩に日頃の稽古精進の成果と昇格・昇級を報告し、併せて一般の方々にご覧いただく報告演武会を開催しました。


開会

 指導・観覧
  宗家    鍵田忠兵衛
  宗家代行 一箭順三
  免許皆伝 前田繁則
  免許皆伝 榎浪伸和
  免許皆伝 尾野好司

 特別参観
 故・藤村耕司免許 遺影
 藤村家ご遺族

黙祷 故・藤村耕司免許

開会挨拶
 目録 西堀清作

司会・進行
 目録 松井典夫

宝蔵院流高田派槍合せの型 表

 鎌槍:初級 鈴木亮太郎
 素槍:初級 小川文英

宝蔵院流高田派槍合せの型 表

 鎌槍:中級 森一雄
 素槍:中級 白木正勝

 鎌槍:中級 山根章
 素槍:中級 境野誠


宝蔵院流高田派槍合せの型 新仕掛
 鎌槍:上級 米原紀吉
 素槍:上級 加藤了嗣(賛助)

 鎌槍:上級 増村正司
 素槍:上級 西村文男
 

宝蔵院流高田派槍合せの型 新仕掛
 鎌槍:目録 半田
 素槍:目録 藤本大輔

 鎌槍:目録 松井典夫
 素槍:目録 田口昌昭

 鎌槍:目録 西堀清作
 素槍:目録 西本昌永(賛助)



宝蔵院流高田派槍合せの型 新仕掛
 鎌槍:免許 鈴木誠
 素槍:免許 美馬博幸(免許 故藤村耕司代理)

宝蔵院流高田派槍合せの型 新仕掛
 鎌槍:免許皆伝 西生利浩
 素槍:免許皆伝 若林幹雄

閉会
 平成22年度 昇格・昇級者謝辞
  昇格・昇級者代表 免許皆伝 西生利浩

藤村家挨拶
 藤村耕典さん


宗家講評
 
演武会講評
 故藤村耕司免許昇格審査提出論文朗読

平城遷都1300年記念「宝蔵院流槍術演武会」
藤村耕司 目録(当時)
平成22(2010)年5月15日(平城宮跡会場)

宝蔵院流高田派槍術 免許昇格審査 提出論文

 「宝蔵院流槍術について」    宝蔵院流高田派槍術 目録 藤村耕司

1. 宝蔵院流槍術と現代社会
 磨きぬかれた赤松の床、道場中央に掲げられた国旗(御神殿)、向かって左には、先々代宗家石田和外宗家が揮毫された扁額「養神」、向かって右には、木村篤太郎翁が揮毫された「精神一倒」、時を知らす鍵田忠三郎先生が「一剣興国」と揮毫された大太鼓、静寂な中、伝習生は正面に一礼のうえ入場、身を正し正座にて黙想、正面(国旗(御神殿))に拝礼を行うことからすべてが始まるのです。
 南都興福寺 宝蔵院覚禅房法印胤栄流祖(本年にて没後403年)が、武芸の修行の中に取入れようと、柳生但馬守宗厳と共に上泉伊勢の守から剣術を学び、槍の達人大膳大夫盛忠から槍の稽古を積み、猿沢の池に映る三日月を突き十文字槍を工夫して、宝蔵流槍術を創始して以来、種々の変遷を経て保存されてきた「宝蔵院流高田派槍合わせの型」を昭和51年、鍵田忠三郎先生の熱意により奈良にお帰り頂き、我々伝習生は稽古をさせて頂いております。
 いま、武士道のカケラもない世の中で、なぜこんなに多くの人たちが何を求めて稽古に通うのか、只道場に立ち、槍の「しごきに励む」無心に槍を「しごく」ことから稽古が始まる。何のために、何を求めて伝修生は道場に通うのか。先生方は、社会的地位や名誉ある職責に就かれた方々で、温厚であり謙虚な美徳を備え武功を語ることを好まない真の武士であります。入門当初はそんなことはまったくわからなくても、伝習生は、諸先生方の日々の動作から人の魅力が湧き出ていることを肌で感じて、耳で聞き、目で見て自分の心の糧としているのではないでしょうか。
 当家の鏡と尊敬する乃木希典男爵は、「弱者を助ける武士道は、社会主義より優れている。」と日露戦争後訪問したフランスで記者団の取材に戦勝の根底を回答しています。
 翻って現代社会を眺めるとどうでしょう。何事も要領よく、自分の手柄にする者達が巷にあふれ、表面上の功績を求め、人(立派な考えを持っておられるが表現しない人、弱者やご老人)には目を向けようとしないのではないでしょうか。      
 現代において、武士道を通じ「この方」のような生き方を目指そう、「あの軍師」のような生き方を目指そう、というのは非現実的で滑稽と思われるかもしれません。
 しかし、小生は55歳になり、宝蔵院流槍術を稽古させて頂く中にあって、かっての武士道を貫かれた人たちを学ぶだけでは、かって立派な人がいたと知るだけで単なる歴史としての知識で終わり、自分にとって本当に必要な教養にはなり得ないことが宝蔵院流槍術を稽古させて頂いたお蔭で理解できてまいりました。毎週道場の稽古においては、腹式呼吸で「エイー」「ヤー」と声高く気合を入れる、日常生活においては、武人の記録を折に触れて音読することで、かってこの国の武士がたしなみとしていた「冷静な判断力」と「誠実な生き方」(自己コントロール法)が身につくとともに、武士の生き方の美学に接することができるような気がしてならないのです。
 自分にとっての「義」、すなわち正しい生き方に目覚めるきっかけとこの気持ちを継続することを私の心に与えて頂いたのは、宝蔵院流槍術を取り巻く興福寺様をはじめ、宗家、先生方、伝習生の皆様方が、私に力を与えて下さるからこそ、稽古を続けさせて頂くとともに、正しい生き方を継続して求めていけるものと感謝しております。

2. 狸汁会と我が家
 「平成15年1月の宝蔵院槍術の稽古始で、一箭先生が狸汁を振舞う計画をしてはるねん。」と、平成14年10月頃の日曜日の夕餉にて母に話すと、母は、『「鍵田はん(御先代忠三郎先生)」には世話になっているねん。誰のおかげで、奈良の年寄りは、バスに乗れる、老春の家で楽しくできる。感謝せんといかん。』私の話を聞いて、『私の畑の大根ぐらいしかお手伝いできひん。何ぼでもつこてや。命のある限り大根ぐらい作ったるで・・・』
 この母の気持ちを一箭先生に伝えるとご快諾いただき、このご縁で、嘉永元年正月二十五日、奈良奉行川路聖謨氏記載「寧府紀事」にある伝統ある「狸汁会」に、母の作った大根を使って頂きました。伝習者、多くの見学の方から冬野菜たっぷりで体があったまったと好評を得たことを伝えると、母も「肥料が違う、無農薬や」と自信満々でした。
 この母も、二年前に他界しましたが、母の気持ちを継続して宝蔵院にお供えする意味も込め、小生のできる限り「宝蔵院大根」を無農薬にて作り上げるため、秋の彼岸に種を蒔き、初稽古の大鍋で皆様方に喜んで頂けるよう励みたいと考えております。

3.武道の伝承と武士道
 当流は、明治の廃仏毀釈で一度は奈良から廃絶した宝蔵院流槍術が、鍵田忠三郎先生、石田先生のお蔭で百年ぶりに奈良によみがえり、西川源内先生、鍵田宗家、一箭先生、諸先生、諸先輩のお蔭で再び発祥地奈良に根付き、現在、日常生活の心棒(心を支える棒)として稽古をさせて頂いているわけであります。
 鍵田宗家、一箭宗家代行は、常日頃「槍は頭で覚えるな、体で覚えろ。」「技は、大きく」と、中高年の伝習生にも元気がでるようにご指導下さいます。一箭先生は、「四百年の技を基本に忠実に残すべく」引落、巻落、槍で冠(かぶ)るように受け止める冠について的確に、ご指導下さいます。
 諸先生方からご指導頂く、「宝蔵院流高田派槍合わせの型」表十四本、裏十四本、新仕掛十四本の槍の稽古は、云うまでもなく素槍、鎌槍で合わす二人の伝習生が成す槍の型であります。一人ではできません。二人は、先ず最初に交わす「礼(相手を敬う心)」から始まり、礼に終わります。武道を通じて日本を「まほろば(理想郷)」にしょうではありませんか。そして我々伝習生は、宝蔵院の歴史を理解し、基本の形を崩さず、脈々と子々孫々に伝承するため、ご縁あって稽古させて頂く先生方、ご支援いただく保存会の皆様方とともにできることからコツコツと、各伝習生のできる範囲で、自ら考え、提案し、健康な日本を造ることが当流の悠久の発展の一つではないかと考えております。
 健康とは、「健やかな体と康らかな心」のことです。自らも、健康な体と心を追求し、敵の攻撃を受け止め、止むを得ない場合にのみ少しの手傷を負わせ、相手の攻撃意欲を減ぜさせ、致命傷を負わせあるいは止めの技の少ない、平和の武道である宝蔵院流槍術の道を「守・破・離」の心をもって、稽古に励み、後世に伝えるためできることから一つずつ行動し、「ニコッと微笑む目を心掛け」、「眼の力を抜けば、肩の力も抜け」、「体も自ずから自然体となり」、「心も体も自由・闊達となる」、との教え、奥義第一「大悦眼(だいえつげん)」を基本として、日本の健康な社会を築くためそして、宝蔵院流槍術の心と技を広め歴史に刻むため少なからず努力していく考えです。
  
平成22年度昇格・昇級報告会
月刊武道(2010.10)「平成22年度 昇格・昇級報告演武会」

平成21年度昇格・昇級報告会
月刊武道(2009.4)「平成20年度 昇格・昇級報告演武会」
平成20年度昇格・昇級報告会

月刊武道(2007.10)掲載「平成19年度 昇格・昇級報告演武会」
平成19年度昇格・昇級報告会

月刊武道(2006.10)掲載「平成18年度 昇格・昇級報告演武会」
平成18年度昇格・昇級報告会

月刊武道(2005.9)掲載「平成17年度 昇格・昇級報告演武会」
平成17年度昇格・昇級報告会
平成16年度昇格・昇級報告会
平成15年度昇格・昇級報告会

2010.10. 4
2010. 7.10