昇格・昇級報告演武会

宝蔵院流槍術
平成20年度 昇級報告演武会
技と心を後世に引き継ぐ


月刊「武道」 2009年4月号
宝蔵院流高田派槍術中級 加藤了嗣 59歳(奈良道場)

 宝蔵院流槍術の平成20年度昇級報告演武会が、平成20年7月5日、奈良市中央武道場において開催された。報告演武会は宝蔵院流槍術の重要な年中行事の一つであり、平成13年より毎年7月開催されている。今年も鍵田忠兵衛第二十世宗家はじめ、免許皆伝の諸先生に見守られる中で12名の新昇級者が昇級の報告演武を行った。


 今回報告演武を行ったのは、5月に行われた本年度の昇級審査に無事合格した者のうち、当日所用で出席できなかったものを除く12名の昇級者達。その内訳は中級3名、初級9名。いずれも稽古を始めて1〜2年経過したばかりの日の浅い伝習者であるが、日頃の稽古成果を発揮すべく精一杯に演武をした。
 演武会に先立つ6月14日、奈良宝蔵院流槍術保存会(多川俊映名誉会長・興福寺貫首、松岡泰夫会長)の総会に先立ち、保存会役員、会員及び伝習者立会いの下、本年度の昇級審査合格者に対し修得証が授与された。宝蔵院流槍術の昇級は、修得証授与とともに報告演武会において師範・先輩・後輩の前で演武披露して、漸く一人前の資格が有ると教えられている。また報告演武会は昇級者達が自ら企画し、司会進行等総てを運営することが習わしとなっている。
 7月5日午前11時、鍵田宗家、一箭宗家代行、前田師範、榎浪師範が着席されたところで太鼓が打ち鳴らされ、昇級者一同入場、着座し礼をとった後、中級の牧野貴文が昇級者を代表して開会の挨拶を行い演武が始まった。
 先ずは、初級昇級者の報告演武。鎌槍と素槍、二人一組で表一本目から七本目までの組と、表八本目から十四本目までの組とが、何組かに分かれてそれぞれ七本ずつを演武した。「ヤア」「エイ」の気合と槍の打ち合う音が静まり返った道場内に響き、演武者の一挙手一投足に衆人の視線が注がれる。次いで、中級昇級者の報告演武。同じく二人一組で裏一本目から七本目までの組と、裏八本目から十四本目までの組とに分かれ演武した。長いようで短い時間、あたかも時計の針が止まったかのような時が流れる。初級、中級、いずれも未熟さの目立つ演武であったと思うが昇級者達にとっては、宗家はじめ多くの先輩方の前で演武させていただくことの緊張感、そして充足感を実感することができ、普段の稽古では得られない貴重な体験となった。
 最後に3年前に目録に昇格した高橋英樹、田口留溜及び駒喜多学先輩に、鈴木誠目録が加わって表七本、新仕掛七本の模範演武を披露していただいた。この3年前目録昇格者による模範演武も今では報告演武会の恒例になっている。そして全ての演武終了後、昇級者を代表して私から宗家はじめ諸先生方にお礼を申し上げるとともに、昇級者一同更に稽古精進を積み重ねる旨を表明した。
 最後に、宗家から全般にわたるご講評と、大きな技が出せるよう一層精進するようにとの激励のお言葉をいただき、本年度の昇級報告演武会の幕を閉じた。

出場者感想


「平常心」をもって
 上級 小橋宗貴 28歳(大阪道場)

 上級を目指すにあたり、私は「平常心」を念頭に置き稽古に励んだ。
 入門当時は技を掛けるどころか槍を持つことだけで精一杯で、先輩方の型稽古を見るたびに驚きそして焦っていたことを思い出す。師匠や先輩に熱心に教えて頂いたお陰で少しずつ技と型を覚え初級、中級と昇級することができた。
 私は中級に昇級した頃、「綺麗な技を披露したい」と考えだした。しかし、その思いが強いときほど失敗をする。逆に「今日は体調が優れないが、其の中でベストを尽くそう。」と自分に言い聞かせた日のほうが技をしっかりと決めることができた。これ以来、私は「心」の重要性を大きく感じ、「平常心」をもって稽古に臨んでいる。
綺麗な型
 中級 牧野貴文 21歳(名古屋道場)

 演武というのは傍から見て綺麗であることが大切だ、と聞いたことがある。実力を備えた者の演武は自ずと綺麗に見えるものだ、ということらしい。
 そのため稽古での演武は、出来るだけ型が綺麗に決まるように心掛けている。見た目に拘るのは違うと思われるかもしれないが、実力のある者に綺麗な型が出来るのであるならば、逆に綺麗な型が出来るようになれば、実力も着くと言えるのではないだろうか。
 尤も自分の演武を客観的に見ているわけではないので、型が綺麗に決まっているかは判断しづらい。しかし、素槍の突きを鎌槍が的確に引いて、あるいは払って捌いた時など「これは!」と、確信のようなものを感じることがある。そのときには客観的にも、綺麗とはいかないまでも、比較的まともに見えているのではないか。
 私に槍術の実力が一層身に付くように、そしてこれからも綺麗な型が演武できるよう心掛ける所存である。
基本の技
 初級 米原紀吉 67歳(奈良道場)

 私は60歳をはるかに越えたが、退職を機に宝蔵院流槍術道場を見つけて門を叩いた。きっかけは昔、三船敏郎主演の映画「宮本武蔵」で、武蔵が鎌槍を使う荒法師と立ち合う場面であった。
 奈良市鴻ノ池道場での入門者は、槍構えという腰を落とした姿勢で歩む稽古から始まる。当初は足がパンパンに痛み、老身には随分こたえた。しかし、一年余で表十四本の型を教わり同期生13名と共に初級修得証を頂戴することができた。
 受審当日は間違わないかと少し緊張気味であったが、大きなミスもなく幸い全員が合格した。日頃親切に個々人に直接ご指導をいただいた結果である。普通、入門者に対しては何年か稽古を積んだ兄弟子が教導に当たることが多いと思われるが、この道場では常に最高位の指導者から指導を受けた。
 受審後のご講評の中から特に「この十四本は基本的な技なので十分稽古を積むように」を忘れないようにしたい。さらに中級を目指して今日も道場へ通う日々である。


平成20年度 昇級報告演武会(08.07.05)
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2009. 4.12
2009. 3. 8