宝蔵院流槍術

随筆 宝蔵院流槍術
  宝蔵院流高田派槍術 第二十一世宗家 一箭順三

4 宝蔵院流槍術 (四)
    季刊:興福第186号(令和元年12月 1日 興福寺発行)
    全4回の最終回
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 宝蔵院流槍術槍柄用材樫の木植樹祭
 (平成28年12月)
槍柄用材樫の木植樹
 宝蔵院流槍術は、樫製の稽古槍(鎌槍:2.7m・素槍:3.6m)を使用しています。しかし、長尺・無節の樫材調達は容易ではありません。槍柄材となる白樫は、この日本において既に枯渇しているのです。
 稽古を継続するにも稽古槍がなければ流儀が立ち行かなくなります。代替にグラスファイバー製を試作しましたが丈夫な反面、手の内が焼けるように熱を持ち稽古には適さないことが分かりました。この危機に、樫苗を植樹し自身で稽古用樫材を育てるしかないと思い至ったのです。
 幕末の奈良奉行・川路聖謨(かわじ としあきら)は宝蔵院流槍術の達人で、毎朝5.6sの槍で1000〜4000本の基本稽古「しごき」を日課としていたほどです。また、奈良赴任時には子息・市三郎を興福寺・宝蔵院へ入門させていました。その川路の佐渡奉行在任時の日記「島根のすさみ」に「ここのかしの柄を取寄せみるに、おさおさ天草[天草かし、肥後国天草特産白樫・槍柄に好適]のごとし。」の記述を見つけました。天草半島の頂上付近の山はかつて官山(かんざん)呼ばれる天領で、ここで産する樫は天草樫と称し槍柄材として江戸幕府にのみ直納されていた当時のブランドでした。
 天草樫は優れた堅さと弾力性を有し、真っ直ぐ20m以上に成長する葉長樫(はなががし)という樹種で、現在は福連木(ふくれぎ)国有林の中で希少種として保護されています。しかし葉長樫は大分・宮崎県の鎮守の森にも自生していることが分かりました。
 平成25年から毎秋、伝習者達と大分・宮崎県へ通いドングリを採集し、奈良において育苗を続け、40〜50cmと植樹ができるまでに成長しました。
 樫の木植樹には、山林の取得、作業道の設置、雑木伐採・搬出など相当な費用がかかります。多くの市民皆様にご寄付を募り、お陰で漸く資金を確保することが出来ました。
 こうして平成28年12月、奈良県上牧町山林に於いて、奈良宝蔵院流槍術保存会会長・春日大社花山院弘匡宮司、奈良県森林技術センター伊藤貴文所長、上牧町 今中富夫町長、山林提供 谷甚四郎氏などにご来臨頂き記念植樹祭を挙行、続いて翌2月に540本の樫苗を植樹しました。
 私共には植樹・育樹についての知識が全くないため、奈良県森林技術センターと50年に亘る「生育管理指導協定」を締結し、専門家による知見と指導を頂きつつ、460年の歴史を有する宝蔵院流槍術を次世代に確実に引き継いでいくためにも、平素の稽古とともに、稽古槍用材確保のための植樹・育樹計画を継続し、日本古武道の普及発展に精進してまいる所存です。

女性伝習者入門
 宝蔵院流槍術は、男性のみによる稽古伝習の伝統を改め、初めて女性伝習者の入門を受け入れました。
 興福寺の僧が創始し、その後、武家に広まった流儀のゆえから男性のみによる伝習の伝統が定着し、私共はそれを頑なに守ってまいりました。それでもここ数年「女性が習えないのか」との問い合わせが来るようになり、「伝承の経緯から」だけの理由では断るのには違和感が募ります。免許皆伝師範会議で話し合った結果、「槍を持てさえすれば稽古ができる」「男性のみに限る必要はない」と全員一致で女性伝習者の受け入れを決定しました。
 こうして本部道場であるならでん武道場(奈良市中央武道場)平成29年4月期伝習者を募集したところ、女性3名が入門、以降も入門者が続き、現在では7名の女性が元気に稽古に励んでいます。
 今後とも槍の長さ・重さや技を変更するつもりはなく、「変えるところ、変えないところ」をしっかり見極め、伝統を守りつつ稽古に精進し、伝習者の育成に尽力してまいりたいと考えています。

(おわり)








2019.12.13