月刊「武道」 古武道のひろば
「狸汁会
(たぬきじるえ)」を挙行
宝蔵院流高田派槍術 第二十一世宗家 一箭順三
月刊「武道」 (発行:日本武道館)2015.4月号 掲載

 南都興福寺宝蔵院では、流祖胤栄(いんえい:〜1607)より歴代、稽古始に伝習者へ「狸汁」を供することが伝統として伝えられていました。

 私どもは、幕末の奈良奉行・川路聖謨(かわじとしあきら)の日記「寧府紀事(ねいふきじ)」の記述に基づき「狸汁」を復活し、今年も1月10日の宝蔵院流槍術稽古始(奈良市中央武道場)に併せ、第13回目となる「狸汁会」を挙行し、伝統に則り伝習者に供すると共に市民にも振る舞い味わって頂きました。

 狸汁とは、歯ごたえが似ているところから蒟蒻(こんにゃく)を狸肉に見たて、これに大根、人参、牛蒡(ごぼう)里芋、油揚げを炊き込み、合せ味噌仕立てにした精進料理のことです。
 稽古始の道場正面には摩利支天(まりしてん)、春日赤童子(かすがあかどうじ)の宝蔵院流槍術御縁二神像を掲出しました。胤栄が天文22(1553)年、摩利支天の化身(けしん)より奥儀を受けて流儀を創始し、また春日赤童子は、春日若宮様の化身として尊崇され幕末期の宝蔵院道場に於いても掲げ祀られていたことに倣うものです。

 稽古始には、極寒のなか多く市民が熱心に見学くださり、40人の伝習者が二人一組になり、号令のもと揃って演武する「一斉稽古」を大きな気合いで心一つに汗を流しました。

 稽古が終わる頃、早朝より炊き始めた狸汁はじっくりと煮上がりました。伝習者と観覧者は道場前駐車場に移動し、午前12時の太鼓を合図に鍋蓋を開き、煮込まれた狸汁を丼鉢によそい、「ハフハフ」と言いながら味わって下さいました。準備した直径1b二基の大鍋200人分の狸汁は瞬く間に底をつき、好評のうちに終了することができました。

  「狸汁」は冬野菜たっぷりの健康料理でそれぞれの食材が旨みを醸し、さらに胡麻油の香りが食欲をそそり冷えた体も温まります。

 この「狸汁」を通じて奈良の歴史を思い、今後とも宝蔵院流槍術の恒例行事として伝えるとともに、古都奈良・冬のおもてなし料理としての定着普及をも願っています。

稽古始の様子
狸汁をふるまう一箭順三宗家

極寒のなか、多くの市民の方々も熱々の狸汁に舌鼓を打っていた



2015. 1.10 平成27年 宝蔵院流槍術 稽古始
2015. 1.10 第13回 宝蔵院流槍術 狸汁会 

2015. 4.14