昇格・昇級報告演武会





宝蔵院流槍術
昇格・昇級報告演武会
技と心を後世に引き継ぐ


月刊「武道」 2006年10月号

宝蔵院流高田派槍術目録 西本昌永 奈良道場

71日(土)、奈良市中央第二武道場において、平成18年度昇格・昇級報告演武会が鍵田忠兵衛宝蔵院流高田派槍術第二十世宗家、西田照夫奈良市武道振興会理事長、師範の先生方をはじめ諸先輩、伝習者、見学者の前で開催された。報告演武会は平成13年より毎年開催され、宝蔵院流槍術の大切な恒例行事の一つとなっている。

昇格・昇級者の演武を拝見する鍵田宗家(左端)



 56日(土)から約1ヶ月をかけて、宝蔵院流槍術伝習者への昇格・昇級審査が実施された。この結果を受けて617日(土)、奈良宝蔵院流槍術保存会(多川俊映名誉会長・興福寺貫首、松岡泰夫会長)総会終了後、保存会役員、会員及び伝習者立ち会いのもと、本年度の昇格・昇級審査合格者に対し、印可状・修得証がそれぞれ授与された。今回の昇格・昇級者は奈良道場で目録3名、上級3名、中級5名、初級1名、大阪道場で目録1名、中級1名、初級1名、名古屋道場で目録1名、中級4名、初級1名の合計21名であった。
 宝蔵院流槍術では例年、7月第1土曜日に日頃の稽古の成果を披露するとともに昇格・昇級を報告する演武会を開催されている。
 報告演武会は、鍵田宗家、西田理事長、一箭順三宗家代行、免許皆伝の先生方がご臨席の中、太鼓の合図で始まった。石黒峰司目録が開会挨拶を行い、印可状・修得証を頂戴した御礼を述べるとともに、精一杯演武を行うことを誓った。
 司会者の演武者紹介によって素槍と鎌槍の演武者が並んで入場し、正面に礼をとり、いよいよ演武開始。向かい合って目礼。「1本目到用」と司会者の声が響き渡り、共に三歩進んで、槍をしごき、腰を据えて中段の槍構えになる。気が満ちて双方、下段に構え、静かに歩み寄り、素槍は鎌槍の裏面を「ヤア」と突く。鎌槍は頭上で受け止め、「エイ」と巻き落とす。更に素槍は「ヤア」と鎌槍の股(もも)を突くが気合い十分の鎌槍にかわされる。素槍は気を満たして再び前面を突くが、鎌槍に「エイ」と引き落とされる。成すすべなく素槍は後退し、双方、槍をしごき1本目が終わる。これは演武の一場面であるが、張り詰めた雰囲気と凄まじい気合いが道場内に満ちていた。
 演武が終了した後、昇格者・昇級者を代表して私が、鍵田宗家、諸先生、諸先輩に御礼を述べ、初心に戻り、更に一生懸命、稽古に精進することを誓って謝辞とした。
 最後に鍵田宗家から、本日の演武及び日頃の稽古への取組み姿勢についてのご講評を頂き、さらに宝蔵院流槍術を後世に伝えるため、伝習生一同日々の努力を惜しまぬようご指導を頂いた。こうして、平成18年度昇格・昇級報告演武会は幕を閉じた。


















今までの稽古の全てを出しきる
目録  小寺直樹(大阪道場)    

 
昇格審査受審にあたって、「間」や「緩急強弱」の明確化を特に心掛けて稽古を続けてまいりました。これに重点をおいた理由は、僅か21歳という若年の為に、人生経験の浅さから技に重みがなく軽く見られてしまうと聞いた為であります。実際、意識して稽古してみれば「軽く見られる」というよりも、「軽かった」ということに気がつきました。
 昇格審査当日は、今まで稽古してきたもの全てを出しきって、今、自分ができる最高の演武で一度しかないこの瞬間を楽しみたいと考え、臨ませて戴きました。
 また報告演武会の際には、昇格審査の時とは反対に「間」や「緩急強弱」を意識しすぎたあまり、型の順を混乱してしまうという失態を冒してしまいました。改めて自分の精神の未熟さを痛感する結果となりました。今回の失敗を糧に、「一つのことに心を留めれば、その一つのことに心をとらわれる」そのことを忘れずに稽古に励みたいと思います。


課題が山積だがさらなる精進を
上級  佐藤 寛(奈良道場)

 今年度の上級審査対象者は3名。審査は、槍合せの型のうち「新仕掛七本」を正しく修得しているかを確認というもの。この「新仕掛」には、これまで習った「表十四本」「裏十四本」にはない技と動作が連携、組み合わされておりストーリー性さえ感じます。それだけに動作、手順を覚えるのは大変で毎週一回土曜日の奈良道場での稽古だけでは心許なく、大阪道場へも通って指導を受けました。
 上級の審査は520日奈良道場で行われました。居並ぶ先生方の前での「新仕掛」はやはり緊張そのもの、素槍・鎌槍の交代時にはとうとう息が上がってしまいました。
 今回、幸いにして「上級修得証」を戴くことが出来ました。しかし、審査後の先生方の講評では正しい姿勢、正確な動作、足運び等について厳しく指摘を頂きました。今は、昇級前よりもさらに課題山積ということになっております。

ひたすら人格の陶冶に努める
中級  松井典夫(名古屋道場)  

 
先祖の導き、そして師のお導きよって入門させて戴いて既に3年の月日が経ち、その間、諸先生方や諸先輩のご指導により、何とか今日まで歩んで来る事が出来ました。
 小生は浜松在であり、道場通いには距離的にも年齢的にもかなり厳しいものがあります。心に怠惰な邪気が生ずることも度々ですが、宝蔵院流槍術後見・故鍵田忠三郎先生の道場訓を唱え、常に怠惰な心に活を入れるようにしております。「只坐れ 只捨てい 只稽古せい」この道場訓に初めて鍵田忠兵衛宗家私邸内の剣禅道場・習心館道場で接したときの感銘・衝撃は、生涯忘れ得ぬものとなりました。動の修行、そして静の修行が如何に大切か、身体を以て教えて戴きました。
 小生に残された時間は僅かなものですが、我が人生を全うするまで宝蔵院流槍術奥義第一「大悦眼(だいえつげん)」の境地を目指し、そして只管人格の陶冶(とうや)に努める所存でございます。

心を美しく保つため稽古に励む
初級  東 省吾(奈良道場)  

 私は今まで武道なるもの全くしたことがありませんでした。しかし、奈良に450年続く槍術があることを知って興福寺奉納演武会を見学し、是非これを習いたいと願いその場で入門を申し込み、一年前の春から稽古を始めさせていただきました。
 当初は長くて重い槍の稽古に苦労をしましたが、良き仲間、良き先輩が暖かい声を掛け、導いていただいたお陰で今日まで辞めずに続けることができました。今回、初級に昇級できましたのも、素晴らしい先生、先輩、仲間のお陰と心から感謝しております。
 昇級審査では、普段の稽古のように型が演武できなかったのですが、平素から真面目に稽古に取り組んでいる姿勢も併せ観て、昇級を認めて戴けたのではないかと、先生方に感謝しております。
 これからも、稽古に精進し心を鍛え、心を美しく保つために稽古に励みます。 



平成18年度 昇格・昇級演武会(06.07.01)

2006.09.28